医師国家試験の臨床問題形式17症例で、解説があります。
CASE17アフェレーシス症例
<症例提示>
52歳、男性。造血器腫瘍の兄が末梢血幹細胞移植を受けることになり、そのドナーとなった。
<学習課題1>
末梢血に幹細胞を動員するためにドナーに投与するのはどれか?
- ① インターロイキン-2 (IL-2)
- ② エリスロポエチン
- ③ ステロイド
- ④ トロンボポエチン
- ⑤ 顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)
- ① インターロイキン-2 (IL-2)
- ② エリスロポエチン
- ③ ステロイド
- ④ トロンボポエチン
- ⑤ 顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)
<学習課題1>
末梢血に幹細胞を動員するためにドナーに投与するのはどれか?
<解答と解説>
解答⑤
造血幹細胞は自己複製能(自分と同じコピー細胞を作る能力)と多分化能(さまざまな細胞へと成熟できる能力)をもつ細胞であり、生涯にわたって造血を維持するために重要な役割を担っている。
成人の場合、造血幹細胞は大部分が骨髄の中に存在していて、末梢血中にはほとんど存在しない。しかし特殊な状況下では、骨髄中の造血幹細胞は骨髄を離れて末梢血中に出現するようになることがあり、これらを末梢血幹細胞(PBSC)と呼んでいる。 最初にこの現象が報告されたのは1976年のことで、固形癌患者に抗がん 剤の投与を行うと、その後に末梢血中に造血前駆細胞が増えるということが示された。その後、G-CSFを投与することによって抗がん剤投与後 のPBSCが著明に増加することが明らかになり、採取後に保存したPBSC を用いて自己末梢血幹細胞移植(auto PBSCT)が行われるようになった。さらにG-CSF単独投与でもauto PBSCTに必要な細胞の十分な採取が可能なことが明らかになり、健常人ドナーからの採取の場合にはG-CSF単独での採取が行われている。
<臨床経過>
600μg/日の顆粒球コロニー刺激因子の投与4日目早朝の検査結果は下記のとおりであった。
WBC 41,380 、RBC423万、Hb12.8g/dL、Ht 37.8 %、Plt 18.2万/μL、AST 17 IU/L、ALT 10 IU/L、ALP 287 IU/L、LDH 388 IU/L、Na 142 mEq/L、K 3.6 mEq/L、Cl 105 mEq/L、Ca9.2 mg/dL、BUN 8.8 mg/dL、Cr 0.83 mg/dL
同日の午後、血液成分分離装置を用いて末梢血幹細胞の採取を開始した。開始1.5時間後、口の周囲と手指にしびれ感を訴えた。血圧、脈拍数、呼吸数に変化はなかった。
<学習課題2>
もっとも考えられるのは次のどれか?
- ① 顆粒球コロニー刺激因子の副作用
- ② 血管迷走神経反射
- ③ 抗凝固剤の副作用
- ④ 複合性局所疼痛症候群
- ⑤ ポビドンヨードに対するアレルギー反応
- ① 顆粒球コロニー刺激因子の副作用
- ② 血管迷走神経反射
- ③ 抗凝固剤の副作用
- ④ 複合性局所疼痛症候群
- ⑤ ポビドンヨードに対するアレルギー反応
<学習課題2>
もっとも考えられるのは次のどれか?
<解答と解説>
解答③
成分採血における副作用として、血管迷走神経反射、クエン酸中毒(反 応)、皮下出血・血腫、神経損傷、複合性局所疼痛症候群などがある。成分採血では、採血ラインから血液に対して一定の比率でACD-A液(クエン酸 ナトリウム水和物、クエン酸水和物、ブドウ糖)を抗凝固剤として混和して 採血する。クエン酸は返血ラインから体内に注入され、体内でカルシウムを キレートすることにより、イオン化カルシウム濃度を低下させる。このために低カルシウム血症の症状を来すのがクエン酸中毒(反応)である。症状として、口唇や手指のしびれ感、倦怠感、悪寒、気分不快、悪心・嘔吐がみられ、けいれんや意識消失に至ることもある。成分献血では血管迷走神経反射の頻度が最も高いが、この症例では、バイタルサインに変化がみられず可能性は低い。
血小板や血漿の採取と比較して、造血幹細胞採取では血液処理量が多いので体内に注入されるクエン酸量も多い。クエン酸中毒の発生率も高くなるので、通常、返血ラインから予防的にグルコン酸カルシウムが持続注入される。それでもクエン酸中毒の症状が出現した場合には、グルコン酸カルシウムの注入速度をあげる、追加投与する、などの対応を行う。
本例では、採取前の総カルシウム濃度は9.2 mg/dL(2.30 mEq/L) (正常値: 2.15~2.53)、イオン化カルシウム濃度は1.14 mEq/L (正常値:1.12~1.32) であった。グルコン酸カルシウムの予防的持続注入が行われ、症状出現時には 総カルシウム濃度は11.7 mg/dL (2.93 mEq/L)に上昇していたが、イオン化カ ルシウム濃度は0.86 mEq/Lに低下していた。グルコン酸カルシウムの追加投 与を行うことで症状が消失し、さらに採取流量を下げることで再発を防ぐことができた。