ケーススタディCASE STUDY

医師国家試験の臨床問題形式17症例で、解説があります。

CASE15輸血のリスクマネージメント(2)

<症例提示>

75歳、女性、血液型:AB型 Rh(-)
感染症マーカー:全て陰性
身長:148cm、体重:50kg

<臨床経過>

両側変形性股関節症のため、右人工股間節全置換術を予定。全身状態良好で、貧血なく(Hb 12.0g/dL)、本人の希望により自己血にて手術を予定。主治医の経験から、同様の手術では、全血保存800mlの自己血貯血が必要。
身長・体重から 1回の貯血量400mlが妥当と判断され、手術予定日の21日前に400ml、14日前に 400mlの貯血が行われた。手術直前のヘモグロビン値(11.0g/dL) であり、術中の出血量は600ml、術中に400mlの自己全血を返血した。
残りの自己全血400mlは病棟へ持ち帰り、術後に使用のため病棟の保冷庫で保管していた。術後 1(POD1)、ヘモグロビン値がHb 8.5g/dLまで低下したため、残りの自己全血(400ml) を返血した。返血開始後、軽度の体温上昇(BT 37.5°C)が認められたが、術後熱と考えられた。
返血終了後、看護師が、同病棟に入院中の同姓患者(血液型A型Rh(+)) の自己血が返血されたことに気付いた。患者の全身状態には異常なかったが、軽度の血圧上昇と38°Cの発熱が見られた。看護師は直ちに主治医に連絡し、血算、生化学などの検査を実施したが、大きな異常は認められず、Hb 9.8g/dLと改善が 見られた。

<学習課題1>

自己血輸血は、現在最も安全な輸血とされており、患者・血液 取違えは絶対に起こしてはいけない医療過誤である。このような医療過誤を防止するため、どのような対策が必要か?
  • ① 自己血返血時の患者、血液照合確認の徹底
  • ② 患者・血液の照合システムの導入、使用
  • ③ 自己血を含む輸血用血液の輸血部門での一元管理
  • ④ 自己血を輸血部から出庫する際の照合確認(コンピュータ・クロスマッチなど)
  • ⑤ 上記のすべて
    • 解答と解説を見る

      <学習課題1>

      自己血輸血は、現在最も安全な輸血とされており、患者・血液 取違えは絶対に起こしてはいけない医療過誤である。このような医療過誤を防止するため、どのような対策が必要か?
      • ① 自己血返血時の患者、血液照合確認の徹底
      • ② 患者・血液の照合システムの導入、使用
      • ③ 自己血を含む輸血用血液の輸血部門での一元管理
      • ④ 自己血を輸血部から出庫する際の照合確認(コンピュータ・クロスマッチなど)
      • ⑤ 上記のすべて
      <解答と解説>

      解答⑤

      ウイルス感染伝播の危険性はなく、同種免疫が関与する副作用のリスクも理論的にないことから、自己血輸血は現在最も安全な輸血と考えられている。しかし自己血輸血を安全かつ適切に実施するためには、管理・供給システムが確立しており、同種血と同様に注意して扱わなければならない。自己血の管理・保存は、同種血と同様、輸血部門において一元管理すべきで あり、輸血部門から払い出す際にはコンピュータクロスマッチなどによる照合確認を徹底し、病棟で返血する際には、患者・血液の照合確認を徹底する。理想的には照合システムを利用する。
      自己血も同種血と同様、返血予定時までは輸血部で管理・保管し、必要時 に照合確認して出庫する。やむを得ず、病棟などに一時的に保管する場合、必ず輸血用血液専用保冷庫にて保管する。

<学習課題2>

自己血返血時の患者・血液取違えにより、医学的にどのような問題が起こり得るか?
  • ① 血液型異型輸血
  • ② ウイルス感染伝播
  • ③ 輸血後移植片対宿主病 (PT-GVHD)
  • ④ 非溶血性副作用(発熱、蕁麻疹など)
  • ⑤ 上記すべて
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      <学習課題2>

      自己血返血時の患者・血液取違えにより、医学的にどのような問題が起こり得るか?
      • ① 血液型異型輸血
      • ② ウイルス感染伝播
      • ③ 輸血後移植片対宿主病 (PT-GVHD)
      • ④ 非溶血性副作用(発熱、蕁麻疹など)
      • ⑤ 上記すべて
      <解答と解説>

      解答⑤

      自己血は、本人のみ使用できる製剤であり、他人への使用は絶対あってはならない。本事例では、血液型を確認せずに返血しており、ABO式血液型、Rh式血液型に関しては不適合輸血となった。そのため、Rh式の抗D抗体を産生する可能性がある。また、自己血輸血を予定している患者の場合、術前検査として感染症(B型、C型肝炎、HIV)の抗体検査を実施しているが、赤十字血液センターが同種血に対して実施している高感度の核酸増幅検査 (NAT)は病院で実施できないため、ウイルス感染伝播のリ スクが残る。また、ウイルス感染症が陽性の患者でも自己血輸血を実施可能なため、感染症陽性と陰性のものを独立した保冷庫で保管することが重要である。ウイルス感 染した自己血が誤って他の患者に輸血されてしまうと、さらに大きな問題に発展する。また、自己血に対して、輸血後移植片対宿主病(PT-GVHD)の予防対策である放射線照射は実施されないため、PT-GVHDが発症する危険性がある。さらには、現状では、 自己血に対して保存前白血球除去は施されてないため、冷蔵保存中に白血球や血小板が産生するサイトカインやケモカインが蓄積し、返血時に非溶血性副作用を引き起こすリスクが、同種血よりも高いと考えられる。