医師国家試験の臨床問題形式17症例で、解説があります。
CASE5外科手術と輸血
<症例提示>
63歳の男性。HBVキャリアである。
肝右葉15cm大の肝細胞癌を認め、肝右葉切除が予定されている。
体重60kg、身長172cm。術前の検査成績は、赤血球料418万、Hb13.8g/dL、血小板17万、血清総蛋白 7.6g/dL、アルブミン4.4g/dL、総ビリルビン値 0.8g/dL、PT% 94%、PTINR 1.1である。
開腹所見では、背景肝は正常から軽度の慢性肝炎程度であった。予定通り肝右葉切除術を行 い、術後ICUに入室した。
術中出血量は2,000gであったが、輸血は行っていない。帰室時のドレーン廃液は淡血清であっ た。眼球結膜や下腿などに浮腫は見られない。
帰室直後の検査成績は、赤血球220万、Hb 5.9g/dL、Ht 18%、白血球13,600、血小板6.8万。血 液生化学所見は、総ビリルビン 0.9mg/dL、AST 1,056 IU/L、ALT 782 IU/L、総蛋白5.1g/dL、アルブ ミン2.6g/dL。
凝固機能検査は、PTINR 1.6、活性化部分トロンボプラスチン時間7秒(基準対照27~37)、 フィブリノゲン 180mg/dL。
出題の意図
肝臓手術直後の病態に応じた成分輸血の知識を問う。血液製剤の使用にはリスクを伴うため、 適応を吟味した適切な使用が求められる。
<学習課題1>
術前の準備について誤っているものはどれか?3つ選んで下さい。
- ① 自己血を貯血しておく
- ② 血小板凝集阻害薬や抗凝固薬の服薬の有無を聞いておく
- ③ 肝切除後の肝不全予防のため、術前から新鮮凍結血漿を投与する
- ④ 手術当日に輸血できるように血小板濃厚液を発注しておく
- ⑤ 術中の出血に備えるため鉄剤を投与する
- ① 自己血を貯血しておく
- ② 血小板凝集阻害薬や抗凝固薬の服薬の有無を聞いておく
- ③ 肝切除後の肝不全予防のため、術前から新鮮凍結血漿を投与する
- ④ 手術当日に輸血できるように血小板濃厚液を発注しておく
- ⑤ 術中の出血に備えるため鉄剤を投与する
<学習課題1>
術前の準備について誤っているものはどれか?3つ選んで下さい。
<解答と解説>
解答③・④・⑤
① 手術までの時間が許せば自己血を貯血しておく選択肢はある。自己血保管の際には、感染症専用の保冷庫に置く。
② 術中出血量を減らすために血小板凝集阻害薬や抗凝固薬の服薬の有無を聞き、もし服薬していたら術前に休薬する。休薬が可能か否かをその薬を処方している医師に確認する。
③ 肝切除後の肝不全予防のため、術前から新鮮凍結血漿を投与する必要はない。
④ 血小板製剤は予約製剤であるが、本例の場合は手術当日に輸血できるように血小板製剤を発注しておく必要性はほとんどない。
⑤ 本例では貧血を認めないので、術前に鉄剤を投与する必要はない。自己血貯血を行う場合は鉄剤の投与を考慮するが、慢性肝疾患でフェリチンが高く ALT高値の場合は、除鉄治療(瀉血など)の適応となることがあるので鉄剤の投与には注意する。鉄剤投与については、肝臓内科医に相談する方が良い。
<学習課題2>
ICU入室後、直ちに投与が必要な血液製剤はどれか?
- ① 赤血球液
- ② 赤血球液と血小板濃厚液
- ③ 赤血球液とアルブミン製剤
- ④ 赤血球液と新鮮凍結血漿
- ⑤ いずれも不要
- ① 赤血球液
- ② 赤血球液と血小板濃厚液
- ③ 赤血球液とアルブミン製剤
- ④ 赤血球液と新鮮凍結血漿
- ⑤ いずれも不要
<学習課題2>
ICU入室後、直ちに投与が必要な血液製剤はどれか?
<解答と解説>
解答①
① 外科手術などの急性出血において、Hb 6.0g/dL以下では赤血球輸血は必須とされている。また、Hb 10g/dL以上あれば通常赤血球輸血の必要性はない。術直後の Hb値が8.1g/dLの場合は、直ちに輸血する必要性は少ない。
② 血小板数が 5万以上あれば通常血小板輸血が必要になることはない。
③ 体重70kgの患者の循環血液量は約4,200ml (70ml/kg x 60kg)である。 2,000mlの出血量は、循環血液量の約50%にあたる。アルブミンは、循環血液量の50%以上の出血で膠質浸透圧が維持できない場合に適応 となる。手術直後ではサードスペースヘアルブミンが移行し、見かけ上低アルブミン血症を呈する。血清アルブミン値が3.0g/dL以下の場合にもアルブミン投与を考慮するが、本患者では浮腫を認めないためアルブミン投与の適応とならない。
④ 新鮮凍結血漿は凝固因子の補充に用いられる。本患者のプロトロンビン時間は正常に比べ延長しているが、新鮮凍結血漿の適応となる 30%以下にはなっていない。
⑤ Hb 6.0g/dL以下の場合、通常赤血球輸血は必須である。Hb値が6.0g/dLから10.0g/dLの間では、患者の状況をみて輸血の適応を決める。